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はなむぐり
第2章 後悔
申し訳ないが、警察とのやりとりやお通夜と告別式、それから…切り取られた写真のように部分的にしか記憶に残っていない。
遺書もなければ何もない。
ただはっきり覚えているのは、蜜樹は一切泣かなかったこと。
それどころか、泣き崩れる母を『ばあちゃん大丈夫よ』と抱きしめ、自分を責める父を『じいちゃんもばあちゃんもおじさんも悪くないよ』と手を握って慰めた。
蜜樹は『私、もう10歳だから自分のことぐらいできるよ。お父さん、冷たかったね、苦しかったね。気づいてあげなくてごめんなさい』と火葬の前に棺を撫でた。
私はそのとき、蜜樹のそばにずっといた。
何をするわけでもなくただ。
それから、蜜樹が小学校を卒業するまで母が蜜樹の部屋に住むことになり、私と父も交代で見に行った。
兄の写真の前には毎日違うお花が手向けられ、母は蜜樹との生活に少しずつ少しずつ生きる力をもらっていた。
そして、蜜樹は無事に小学校を卒業し、私の実家から通える中学校に入学を決めた。
小学校の頃の友人とは離れてしまうが、蜜樹は『おじさんの近くがいい』と言い、私たちが住む町に引っ越してきた。
セーラー服姿の蜜樹はあの淡い紫色のワンピースを着た10歳の少女ではなく、女性に成長していた。
成長せざるを得ない環境だった。
両親含め私もそうだが、デパートに出かけて帰って来て。大好きな父親に可愛い洋服を見せた優しい女の子。兄の小さな…いや救いを求める声に。
蜜樹の本当の声を吐き出させてあげればよかった。
兄さん。
それ以上、もう浮かばない。
ただ、真面目で温厚でいい男だと馬鹿みたくいつも思う。