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はなむぐり
第1章 愛しい花
何度目の春だろう。
窓を開ければ新一年生の初々しいランドセル姿やぎこちないスーツ姿の青年。桜はまだ硬い蕾のままだがそう思っているうちに満開になり、あっという間に散ってしまう。
子どもの成長は早い。
幼い頃から二十歳にかけては成長というが、私のような初老同然の男に輝かしい『成長』などなく。むしろどう迷惑をかけずに人生を終わらせるかばかり考えてしまう。
頼りないふわふわの残り少ない白髪頭に黒と白の針金のような髭。この元気な髭が頭に移れば少しは違うだろうに。刃こぼれを気にしながら髭を剃り、また増えたのかと右のこめかみのシミ。
56歳。もうそんなものか。
毎日発見する老いから目を離し、ネクタイを締めながら台所に向かった。