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はなむぐり
第4章 誘う香り
アパートに着くと蜜樹は私のYシャツの袖を掴みながら階段を上がり、部屋に入っても袖を掴んだままだった。冷蔵庫から作っておいたアイスコーヒーを出そうと台所に向かおうしたとき、蜜樹は乱暴に鞄を落とした。
私は袖を掴んでいる手の上からそっと手を重ね、俯く顔を覗いた。
「ばあちゃんと電話で何回か話したけど、アルバイトのことは教えてくれなかったな。おじさんだけ仲間はずれで悲しいよ」
冗談交じりでそう言うと、ゆっくりと身体を肩に預けてきた。
「怒ってない?」
今にも泣きそうなか細い声が、汗ばんだ背中を撫でる。
蜜樹の肩に手を回して胸に引き寄せ、ゆっくりとひざまづく。小さな両手を握り、やっと見ることができた愛しい顔を見上げる。
「怒ってないよ。おじさんが悪かった。ずっとなんて言おうか考えてた。蜜樹を考えない時間は一秒もなかった」
「本当?」
ゆらゆら揺れる黒目は今にも落ちそうだ。
「本当だよ」
「…蜜樹のこと好き?」