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はなむぐり
第8章 花に包まれる
4月も終わりに近づいているのに、夕方になると肌寒い。56年寒冷地に住んでいるとはいえ一向に慣れない。歩き慣れた道はいつしかコンビニができたり見晴らしが良くなったと思えば古いアパートが取り壊されたのだと後から気づく。
皆でよく行ったデパートも5年前に壊されてしまった。
蜜樹が働くスーパーは変わらずにあるが売り上げは昔より少し落ちたらしい。しかし、以前はなかったポイントカードを発行したり商品の仕入れなど見直して工夫している。
ふと、アパートへ帰る足を一度止めた。しばらく考えて引き返し、役所の近くにある駅に向かう。兄がいなくなった場所に私は向かっている。隣町だがその川には何十年も行っていない。手を合わせて花をと思っても、行けば何かが崩れる気がした。
しかし、行かなければいけない。
何も手助けできなかったこと、蜜樹を叔父としてではなく男性として愛してきてしまったこと。
毎日思っても、気持ちは収まらなかった。
駅の周辺は蜜樹の母校の制服を着た生徒が多く、隣町から通う子もいるため、電車内もとても賑やかだった。スカートの丈の短さとスマートフォンに夢中になる姿に田舎でも現代を感じた。
隣町の駅に着くと大勢の学生と仕事終わりの人で溢れ、私は最後の方で下りた。駅からバスに乗り、隣なのに開けた街に変わっていて驚いた。駅も綺麗に改築され、新聞で役所を新しくしたり商業施設ができたと知っていたが、ここまでとは。