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はなむぐり
第2章 後悔
「智(さとし)はいいよな。一人の方が楽でいいだろ」
実家の居間のソファで兄はうなだれながらそう言った。
このとき蜜樹は10歳を迎えたばかりで、お祝いに私の両親に連れられて近くのデパートへ遊びに行っていた。
「兄さん、蜜樹がいるのにそんなこと言うなって。兄さんの迷惑にならないようにあの年齢で家事もして…成績だって申し分ない。全部、兄さんのためだよ」
テーブルを挟んで向かい合わせにあるソファに腰かけている私は、兄のどこを見ているか分からない両目を見つめる。すると両手で顔を覆い、そのまま頭へもっていくと血が出るんじゃないかというぐらい頭を掻きむしる兄。
「お前には分からない。蜜樹が生まれた途端にあいつは出て行った…あいつのために俺は血眼になって働いたんだ!その金を…知らない男と一緒に…なんでだよ!」
「やめろって兄さん!分かったよ。分かったから落ち着いて」
真面目で温厚で。兄は隣町の役所に勤めていて、私とは比べものにならないほど仕事ができ、水道局に移ってからは役職にも就いた。
そんな自慢の兄が子どものようにソファで暴れ、テーブルの上のリモコンやマグカップを一気に落とす。