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裏切りの幼なじみ
第7章 哀しき未亡人
「うふふ。嬉しい。おかわりも飲んでね」

先ほどまでの緊張感が霧散していくが、代わりに重だるさが全身を襲う。心身の疲れが出たようだ。

それでも頭は冴え、埋もれていた記憶が紐解かれていく。彼女の真実を引き出すために、まず自分を明かすことにした。

「俺……家を追い出されたんです。いろいろあって……」

話し始めると、心が軽くなっていく。言葉を吐きだしたことで、自分が話し相手を欲していたことに気付いたのだ。

斜め向かいで微笑みながら座る愁いのある女性。ずっと年上であろう彼女が、カウンセラーのように傾聴してくれる。

「そう。大変だったのね。私たちは困っている人を助けるのが生き甲斐なの。だから何でも言ってね。これを渡しておくわ」

渡された名刺には松嶋奈津子と記され、この部屋のものと思われる住所と電話番号の記載もあった。

「今一番欲しいものは何?」

「欲しいもの?」

思わず周囲を見渡す。

(さっき『私たち』って言ったよな……)

やはり他にも誰かいるのだろうか。子どもを預かっている様子はもうないが、このあと誰かが来るのかもしれない。

「欲しいものは……居場所だけです。寛げる自分の居場所。それ以外にもいろいろあると思うけど、今は浮かばないんです。混乱してて」

「そんな時もあるわ。人生だもの。ここでゆっくり休みなさい。ここがあなたの居場所よ」

胸に熱いものがこみあげた。彼女がくれた言葉こそが、いまの自分が一番欲しかったものに違いない。

「ありがとうございます。松嶋さん」

暫し沈黙し、彼女はすぅ……と息を吸い、口を開いた。

「名字で呼ばれると哀しくなっちゃうの……だから、奈津子って呼んで」

「……奈津子さんも、独りなんですか?」

恐るおそる、隆志は訊いた。

「そう。主人は優しい人だったけれど、もういない。あっという間だったわ。人の命って儚いわよね」

こうして生きていられるのは奇跡なのだと、奈津子は呟いた。何かの事情でご主人が亡くなり、今は未亡人ということらしい。すると『私たち』という表現も過去のものだろうか。

黙って麦茶のおかわりを注いでくれる奈津子を、じっと眺めた。彼女は視線に気付き、ふっと優雅な笑みをくれた。
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