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裏切りの幼なじみ
第7章 哀しき未亡人
ひとりっ子の隆志は、きょうだいに憧れたことなどなかったが、そのとき初めて、こんな綺麗で優しいお姉さんがいたらなぁ……と想いこがれた。

やがていつの間にか眠ってしまったのだろう。気が付いて身体を起こすとすっかり痛みは消え、ベッド脇に女性の姿はなかった。

具合が良くなった代わりに、妙な感覚が体の中心に残っていた。

ドア口からすぐ近くにトイレがあったので、こっそり借りた。半ズボンのチャックからペニスを出すと、全体的にベタついて所々に赤い付着があった。そのときは何だかわからないままに用を足し、トイレを出た。

楽しそうな歌声が聞こえてきた。

壁際からそっと覗く。あの優しい女性がオルガンを伴奏しながら歌い、子どもたちがそれにならって合唱していた。

幼心に疎外感が芽生えた。さっきまで自分だけの優しいお姉さんだった天使が、みんなの先生になっていた。それが寂しかったし、当時の隆志には帰る場所があった。

「あなたのお名前をまだ聞いてなかったわね」

お盆を手に戻って来た奈津子に、優しく問われた。過去から現実に戻り、隆志は目を開ける。

「小塚隆志です。すみません、名刺をもらったのに自己紹介も忘れてて……」

憂い顔の奈津子が、別人のような笑みを浮かべた。未亡人としてよりもオンナとしての妖艶な笑み。

小さめのコップに半分ほど入った褐色の液体を蛍光灯にかざすようにしてから、奈津子はそのコップを手のひらに包んだ。

「隆志くん……これを飲めばすぐに良くなるわ。でも、昨日煎じたのを冷蔵庫に保管していたものだから、温めなきゃね。さっきの冷たい麦茶でお腹を冷やしたのが不調の原因かもしれないから」

「いいえ、それは違います。もともと疲れてたんです。ちょっと休めばすぐに治りますから」

恐縮しながら言う隆志に奈津子はふっと妖しく微笑み、そのコップを口に運んだ。やわらかそうな唇に濃い褐色の液体が吸い込まれていく。

口に含んだまま奈津子が突然、顔を接近させてきた。

「ぅんぐ……」

口移しという名の熱いキスだった。女息の香りと唇の柔らかさは極上だ。

とろりと流し込まれた煎じ薬は、苦いけれど舌触りは甘い。

(この感触……そうだ。あの時も同じように……すごくいい匂いがして、柔らかかったんだ)
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