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ふしだら音楽室〜汚された制服〜
第2章 はじまりの音楽準備室


 早朝の校舎の空気は、どこか青白っぽく感じる。
 昇降口の窓から差し込む光が、しんとした空間にほこりを浮きだたせている。
 
 中村悠人は上履きに履き替えた。
 リノニウムの廊下にキュッと音が響く。

 北豊高等学校は学園祭を明日に控え、廊下の壁には各クラスや部活の出し物のポスターがにぎにぎしく貼られている。
 悠人は吹奏楽部の自主練習のため音楽室へと向かった。
 吹奏楽部は学園祭で二日間公演をおこなう。

 悠人にとっては高校生活最後の公演となる。

 悠人はティンパニーを担当している。
 しかし、公演間近というのに、ところどころテンポが乱れてしまう。
 そのため、昨日の練習のあと、部長の山口美羽から自主練をするよう申しつけられたのだ。
 
 音楽室への階段を上がりながら、悠人は昨日の美羽の唇をとがらせた表情を思い出していた。

「中村君は、いつも拍子の入りが遅れ気味です。ちゃんと指揮見てくれていますか?」

(あぁ……山口さんに、また怒られちゃった……でも、山口さん、怒った顔もかわいいなぁ~)

 美羽はネコのような黒目がちな瞳で、上目遣いに悠人を見つめていた。
 同じ歳の小柄な部長に見つめられると悠人の背に、ぴぴっと電流が走る。
 動悸と微熱を感じ、制服の襟元から、むあっとした熱が立ち上るのを感じた。

 美羽は小顔で他の女生徒と比べ肌の白さが目立つ。
 高くはないが、すっと通った鼻筋と、小ぶりで整った形の小鼻。

 なによりも目を引くのは、つりめがちな、くりっとした大きな瞳だ。
 だが、しかめた眉からは言葉以上に悠人の演奏に不満をいだいていることがうかがえる。
 
 悠人は頭ひとつ分背の低い美羽を無言で見下ろす。
 叱られているのにもかかわらず、悠人は美羽に見とれてしまう。
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