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蘇州の夜啼鳥
第1章 ランタンの月
「だ、大丈夫ですか⁈ミスター!」
暁蕾がずぶ濡れになりながら、慌てて池の底に倒れこんだ片岡に声をかける。
池の深さは膝辺りしかなかった。
だから溺れる心配などない。
しかし、慌てふためく暁蕾の声は続いた。

「ミスター!片岡さん!
大丈夫ですか!」
片岡は派手に濡れながらゆっくりと起き上がる。
引き上げる暁蕾の腕に捕まりながら尋ねた。
「…大丈夫さ。
君、怪我は?」
「わ、私は平気です…!」
動揺する暁蕾に微笑いかける。
「良かった。
若いお嬢さんに怪我させるわけにはいかないからね」

…そして、くすくすと小さな笑いのシャボン玉を弾けさせるかのように笑い出した。
「…こんな…観光名所の池に落ちて…濡れねずみになるなんて…まるで漫画だ。
…あ〜あ…。君といると飽きないな…」

騒ぎを聞きつけた観光客がわらわらと集まって橋の袂から好奇心を露わに見物を始めた。
…俺は、蘇州くんだりまで来て何をしているんだ。
滑稽なのと馬鹿馬鹿しいのと可笑しいのと…いっそ清々しいような不思議な感情が溢れて笑いが止まらない。

「わ、笑い事じゃないわ。
もう!貴方に何かあったらどうしようかと思ったわ!」
池に座り込んだ暁蕾はべそをかいていた。

…まだまだ子どもなんだな…。
片岡は優しく笑いかけ、池の水面にゆらりと浮かんで来た真紅の薔薇を再び暁蕾の髪に挿した。

「…美人は濡れても綺麗だな…」

暁蕾は腹立たしげに片岡を睨みつけ、毒づいた。

「こんなときに何言ってるのよ…!
…やっぱり最低…!」

そうして小さなくしゃみを連発させたのだった。

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