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蘇州の夜啼鳥
第2章 かりそめの恋
女将に丁重に礼を言い、茶館を出る。
雨上がりの川面がきらきらと光る。
小路は観光客で溢れ始め、賑やかな声が響いていた。
…今日は週末だ。

暁蕾が、自然石を利用して作られた石橋から水路を見下ろし、片岡を弾けるような笑顔で振り返った。
「ねえ、舟に乗りましょうよ」
片岡は眉を上げた。
「舟?」
「…私、ガイドはするけど舟にちゃんと乗ったことがないの。
地元の人間はこの舟はほとんど利用しないのよ。
それに、ガイドは船着場で送り迎えするだけだから…。
…貴方と舟に乗ってみたい」
いじらしさが溢れ、片岡は暁蕾の肩を抱き寄せた。
「…乗ろう。一番いい舟を探してくれ」
暁蕾が吹き出した。
「どれも同じよ」
「じゃあ、君に任せる」
嬉しげに頷き、片岡の手を引いた。
「こっちよ。知り合いの船頭さんがいるの」
…温かな柔らかな手…。
少しどきどきしながら、握り返した。

…もっと淫らなことをしたのに…何を俺は思春期みたいに…。
甘酸っぱく…それでいて弾むような気持ちを噛み締めながら片岡はさらりと秋風に靡く、暁蕾の美しい黒髪を眩しい思いで見つめていた。

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