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愛することで私たちは罪を犯す
第1章 1. 悲劇の序章

(危ないかもしれない…!)
本能が思考よりも先に結論を出し、琉泉は動きだしていた。
と同時に、視界に入れていたその男は、ポケットに手を突っ込んだまま響がいる方向に向かって歩みを進める。
(まずい…!!)
タイミング悪く、その男が近づいてくる方向には、ボディーガードが誰もいない。
そして、誰も気づいていない。
ちょうど、響が影となって男の姿は死角に入ってしまっている。
さらに言えば、男の方が琉泉よりも響への距離が短い。
文字通り“絶体絶命”の状況。
(なら、一か八か…かけてみるしかない!!)
琉泉は全速力で走り出した。
と同時に、男が響まであと15mというところで走り出す。
手に、刃渡り約3㎝ほどの刃物が握られているのを目視し、早口で無線を入れる。
「5時の方向の死角、不審者あり!!佐伯、鎮圧します!!」
全員が男の方向を見て、身構える。
…が、もうすでに男はあと5mという距離まで迫っていた。
間に合わない。
誰もが、そう思った。
琉泉以外は。
「死ねぇぇぇぇ!!!」
「キャーーーッッ!!」
男のドスの効いた声と、誰かの悲鳴が響き渡った、その瞬間。
琉泉は、男と響の間に飛び出した。
男の方に正面を向きながら、何のためらいもなく、スムーズに。
「なっ!?」
目の前に突然知らない女が滑り込んできたことに驚きを隠せず、一瞬だけ怯んでしまった男。
わずかコンマ1秒ほどの、一瞬。
だが、琉泉にとっては十分な時間だった。
手拳を胸元に叩き込み、回し蹴りで刃物を吹っ飛ばす。
何が起きたのか理解が追いつかない男をよそに、琉泉は続けて足をすくい、地面に叩きつけ、絞め技で相手を完全に落とした。
「誰か、テープを!!」
周りで呆然とその様子を見ていた仲間も、ハッとしたように動き出し大事には至らなかった。

