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愛することで私たちは罪を犯す
第1章 1. 悲劇の序章
『あなたが響を守るのは、捨てられたくないから』
さっきの声が、頭をよぎる。
(そう…かもしれない。私は結局、自分のためにこの人を利用している)
この国の誰もが知っている大企業、YAGAMI ホールディングス。
その経営陣である八神家の御曹司。
琉泉が響のそばにいることができるのは、ボディーガードという職があるからであって、琉泉そのものに価値があるわけではない。
本来であったら、琉泉が出会うことすらできないようなところにいる人なのだから。
そして、いつ追い出されてもおかしくはないのだ。
それが、琉泉はとても怖い。
自分は要らないのだと、そう言われるのが。
だから、不要物にならないように、響の盾となると偽の忠誠心を捧げているのだろう。
卑怯だとは理解している。
ここにいてはいけないことも、重々承知だ。
だけど……
(もう、誤魔化せない…)
『あなたのことが、好き』
ふっと湧き出た、気持ちだった。
それは、救われた側の琉泉がもつことを許されない、小さな感情。
脆く、いとも簡単に壊れてしまう感情。
絶対に、相手には伝えてはいけない感情。
琉泉は、ゆっくりと響から離れた。
見下ろした響の瞳には、動揺とともに隠しきれない熱情が浮かんでいる。
その瞳の中に灯った熱情をみたとき、琉泉の心のどこかで、箍が外れた。
時間が、とまる。
その行動は、もはや衝動だった。
琉泉は、響に近づきーー響の唇に自分のをそっと重ねた。