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愛することで私たちは罪を犯す
第1章 1. 悲劇の序章

…………………………
黒塗りの高級車はすでに門の近くに付けられており、琉泉は運転手の戸部と車の点検を行う。
これは毎朝のことで、響に危険が及ばないようにするためのものだ。
「では、今日もよろしくお願いします。戸部さん」
「はい。畏まりました」
うやうやしく頭を下げ、戸部は運転席へとむかった。
「車にまで詳しくなって、お前は一体何を目指してるんだ?」
ハッとして振り向くと、門に寄りかかりこちらを見つめる響と目が合う。
(かっこいいな…)
腕を組み、不審げに寄せる眉も、琉泉を映す瞳も、全てがかっこいい。
こんな人とこんな距離で会話できるのは、あの日あの時、会長の偀に自分が救われたからだ。
本来ならば、琉泉のような人間が出会うはずのない殿上人。
「…私は死ぬまで、貴方を守る盾です。盾として必要な技能は全て身につけるつもりです」
「………」
当たり前のことを言ったつもりだった。
響にとって自分は一介のボディーガードで、また琉泉にとって響は守るべき主人だ。
盾になるのは当然。
だが、近づいてきた響は眉間にシワを寄せ、険しい表情になる。
「…自分のことを、盾なんて言うな」
ポンポンっと頭を優しく撫でられ、響は車に乗った。
少しの間、琉泉は固まっていたが、なんとか意識を戻して後ろのドアを閉める。
「……なんて目をしてるんですか…」
琉泉に向けられた瞳には、驚き、動揺、悲しみ、怒りなど、沢山の色を滲ませていた。
琉泉も車の助手席に座り、車は走り出した。

