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恋がしたいと言いながら
第1章 待ちに待った呼び出し
 腕時計は午後七時を指して、夏の空はまだうっすらと明るい。
 賑やかな学生さん、疲れた様子のおじさん、派手なお兄さん、きれいなお姉さん、さまざまな人でごった返す交差点をするすると抜けていく。
 ダンスホールを颯爽と突っ切る社交ダンサーみたいに、自然と足取りは軽くなる。
 とりあえず駅を目指しながら、意識の半分はスマホの中で交わされる彼とのやりとりに集中していた。
『どこに行けばいい?』
『いまS駅にいるんだけど、確か加奈の職場この辺だよね?もう帰っちゃった?』
 S駅は私の職場の最寄り駅で、まさに今、私が目指している駅だ。
 早く会いたい人とこんなにスムーズに落ち合えるなんて。はやる気持ちがますます加速する。
 彼は忙しい人だから、私たちが前もって会う約束をすることはほとんどない。
 時間帯だけはなんとなく夜と決まっているけど、しょっちゅう会える時期もあればぜんぜん会えないこともある。
 私はじっと連絡を待ち、呼び出しがあればいつでもどこでも喜んで会いに行く。
 そんな私を亜実や真由ちゃんが内心でちょっとバカにしているのもわかってるけど、どうしたって会いたいくらい好きなんだから仕方ない。
 駅の構内、待ち合わせスポットである大きな柱の前に彼は居た。誰かを待つたくさんの人たちと同じように、スマホを片手に立っている。
 駆け寄る前におかしなところはないか、手鏡でさっと確認してから、よし、と顔を上げると、彼の姿がなくなっていた。
 慌てて周囲を見回したとき、不意に後ろから肩を叩かれる。びっくりして振り向くと、可笑しそうに笑う彼が居た。
「お疲れ、加奈」
 からかわれた悔しさは、頭をぽんぽんと撫でられるともうどうでも良くなった。喜びと愛しさが胸に溢れて、彼の腕にぎゅっと抱きつく。
「お疲れさま、優也くん」
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