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『君×僕×妖怪』
第2章 ―記憶―
「錺……」
いつもと違う兄の弱々しい表情を見て、日向は小さな声で名前を呼ぶことしか出来なかった。
何もしてやれない自分に腹が立って、それでいて錺を見ていると悲しくなった。
「覚えているわけ…ないよな」
錺の頬を伝った雫を日向は見逃さなかった。本人は気付いてないのだろう、いつもと様子はなんら変わっていなかった。
(どうして覚えてないんだろ…)
昔から物覚えはよかったはずだ。小さい時の記憶も断片的にだが、今でも思い出せる。
ふと気付いた。
(何で錺が帰るって…)
朝から不確実なことでそわそわした。これが偶然だとは思えない。
「錺、ごめんね」
優しく抱き締めてやると錺の肩がピクリと跳ねた。
今の自分には謝って、冷えた心を抱き締めて温めることしか出来ない。日向はそう思った。
「きっと思い出すから、さ」
日向に抱き締められたまま錺は小さく頷いた。