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6月の花婿
第3章 散蒔かれた誘惑
やけに大きなビルの前で汐田は立ち尽くしていた。
想像を遥かに越える、立派な高層ビル。高そうなスーツを身につけた人々。
「本当にここなのか…?」
半信半疑ながらも、フロントで案内された通りに最上階へ向かった。
エレベーターは最上階までついた。
扉が開くと、女性の秘書が汐田を出迎えた。
「受付を致しますので、こちらへお掛けください。」
白く塗られた壁の前に置かれた小さめの椅子に座る。
汐田の他にも客がちらほらいるようで、三人ほどいる秘書達は皆慌ただしげだった。
汐田の前にいる秘書も同様だ。
「それでは、お名前をお伺いして宜しいですか。」
「汐田芙蓉です。」
「汐田様ですね。本日はどのようなご用件で、どちらの会社をお訪ねですか。」
「恋人の代行を頼みに、M&S社を。」
「かしこまりました。では、右手前の入り口から入って下さい。」
秘書はそれだけ言うと、丁寧に挨拶して立ち去った。
大変そうだな、と去っていく秘書に同情しつつ、言われた入り口から中に入った。
「待ちくたびれたよ。」
「え。」
オフィスにいた人物をみて、目を疑う。
そこにいたのは昨日会ったばかりの呉皐月だった。
「お客様のリストで君の名前を見つけて、すぐに通すように秘書に伝えてたんだ。
それでも割りと待ったんだよ?」
「それは、すいません。でも、呉様のお仕事は音楽系ですよね。なぜここに?」
「副業だよ。ここも僕ので、色んな業種の会社を平行してやってるんだ。」
「はあ。なるほど。」
「うん。でも今日は、恋人の代行を頼みに来たんだってね。どうして?」
「両親にお見合いを強要されまして、なんとか断らないと無理に結婚させられそうなんです。」
大方な事情を説明すると、納得したように二回頷いた。