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6月の花婿
第2章 仕掛けられた罠


「おはよー…ございます。」

「おはよう。朝から何気味悪い顔してんだ、汐田新人くん。」


花野出版社に入社してはや半年。
希望どおりに音楽雑誌の編集になり、先輩との関係も良好。
もう長い一人暮らしも慣れたもので、俺の生活はまさに順風満帆だったのだが…。


「今朝、母親から連絡があったんです。うちが家柄いいの知ってるでしょう?」

「うわあ、自分で言うか。それでなんて?」

「早いとこ良家のお嬢さんと結婚するために、お見合いさせるって言うんですよー。」


汐田の家は昔ながらの良家の一つ。そのせいで、幼い頃からずっとしきたりに従って汐田は育ってきた。
そんな実家が嫌いなのもあって、早くに家を出たというのに。

お見合いなんて、冗談じゃない。


「ほー。どんな子なの。可愛い?」

「俺、そういうのよくわからないんです…。でも美人でしたよ。あくまで一般論ですけどね。」

「美人なら、会うだけ会って来ればいいじゃない。」

「駄目ですよ。ちょっとでも隙を見せたら、あっと言う間に結婚させられますから。」

「そんなもんかねー。」


編集部の先輩、神田は苦笑いで首を振った。煙草を吹かす様が板についている。


「そういえばな。今日VIPを、取材記事の編集するために会社に呼んだらしい。」

「え?先月の取材、拒否してきた迷惑なVIPですか。」

「汐田くーん、そういうこと言わなーい。それに、そのVIPの相手するのは汐田だからな。」

「んなっ。嫌ですよー。先輩代わってください!この通りですから!」


汐田が下げた頭を、神田は哀れんだようにポンポンっと撫でた。
編集長直々のご指名だそうで、逃れることはできないらしい。


「そんな…編集長も鬼ですよー…。俺、何したらいいんですかー?」

「あははっ。まあ、色々?」

「よく分かりましたよ…。」


はぐらかされた汐田は、それ以上を詮索することなくそれぞれの仕事に打ち込んだ。




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