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夜明けまでのセレナーデ
第4章 ラプンツェルと聖夜の夜啼鳥
音もなく、扉が開いた。
「…瑞葉様…」
振り返る瑞葉のエメラルドの瞳が大きく見開かれる。
飾りかけのツリーのオーナメントが、白く華奢な手から溢れ落ちる。

「…八雲…!来てくれたの…!」
言葉の残りは男の逞しい胸に吸い込まれた。
「…貴方を聖夜にお一人にはいたしません」
…優しい声とともに男の胸元からは、懐かしい薫りが漂う。
ジャスミンのようなひんやりとしたその薫りは、冷ややかな美貌の男によく似合っていた。
「…お寒くはありませんか?
お食事は十分に摂れていらっしゃいますか?…お貌をよくお見せください…」
顎を持ち上げられ、その瑠璃色の怜悧な瞳を見つめる。
「…大丈夫。紳一郎さんも薫さんも優しいし、よくしてくれているよ。
最近、薫さんの愛犬と遊んでいるんだ。
カイザーっていうの。
すごく大きなドイツシェパードだけど、大人しくて人懐っこくて可愛いんだ」
「…そうですか…。それは良かった…」
男の黒革の手袋に包まれた手が、優しく髪を撫ぜる。
「いつか、あんな可愛い犬を飼いたいな…」
「…飼いましょう…。でも、その前に…」
…キスをしてください…。
端正に整った一分の隙もない美しい執事は、懇願するように瑞葉に告げ、呼吸する間もなく唇を奪われた…。

「…あ…っ…」
「…逢いたかった…貴方に…」
僅かに唇を離され、熱く囁かれる。
「…やく…も…」
…僕もだ…
切ない言葉は男の熱い口づけに飲み込まれ、そのまま抱き上げられた。
「メリー・クリスマス…瑞葉様…」
頰にキスを落とされ、厳かに告げられる。

確かな足取りで男が隣の寝室に向かうのを、瑞葉はそっと瞼を閉じながら、委ねたのだ…。

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