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夜明けまでのセレナーデ
第4章 ラプンツェルと聖夜の夜啼鳥
「…ああ…八雲…」
天蓋の紗幕を荒々しく除けると、八雲は今までの丁重さをかなぐり捨てるようにやや乱暴に瑞葉を寝台に押し倒した。
「…瑞葉様…!ああ…貴方をこの手に抱くまでは、私の不安は尽きないのです…」
瑞葉の髪…貌…身体を確かめるように撫で下ろしながら溜め息を吐く。
「離れている間、貴方はどうしておられるだろうか…と。
お元気だろうか…お寂しくはないだろうか…。
…いや、万が一、特高に踏み込まれていたら…!
そう思うと、何も手に付かないのです」
「…八雲…」
普段冷静で決して取り乱すことのない男の、やや常軌を逸したような言葉に瑞葉は困惑したように微笑む。
「…そんなこと…。
八雲は心配性すぎるよ…」
瑞葉の白い指が、八雲の精悍な頰を撫でる。
「紳一郎さんたちが、しっかり守ってくれているから大丈夫だよ。
…それに…万が一特高にばれたとしても、僕が外国人の抑留地に移ればいいだけでしょう?
そんなに危険なことなの?」

八雲の端正な眉が厳しく顰められる。
「抑留地などに、決して貴方を行かせませんよ。
…あんな…得体の知れない外国人たちや…それを見張る卑劣な憲兵がいる場所に、貴方を送るなど…。
飢えた獣の檻に、か弱いうさぎを放り込むようなものだ。
…貴方はあっという間に男らの餌食にされてしまうでしょう」
「…八雲…?」
…男の手が、瑞葉の白いうなじを這い回る。
「…この蜂蜜色のお美しい髪…エメラルドに輝く瞳…薔薇色の唇…透き通るように白い肌…この美しいお貌とお身体に…すべての男たちは虜になり狂わされてゆくことでしょう…」
…真珠色のナイトドレスの鈕が荒々しく引き千切られる。
「…ああ…っ…や…あ…」
瑞葉はびくりと身を縮める。

…八雲は、美しい詩の暗唱をするかのように、滔々と語り続ける。
「…貴方はたくさんの荒くれ男たちに犯され、蹂躙されてしまうのですよ…。
こんなにもお美しいひとを我が物にしようと、男たちは血生臭い争いを始めるでしょう…。
…貴方は、その勝者に昼となく夜となく犯され続けるのです…」
「いや…!やめて!そんな…怖いこと…言わないで…!」
瑞葉は貌を引きつらせ、恐怖心から涙を流す。

男はふっと表情を緩め、優しく微笑みかける。
「…ですから、瑞葉様はここに隠れていなくてはなりません。
…決して…ここから出てはならないのです。
…よろしいですね?」


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