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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
「薫くん。久しぶりだね。
よく来てくれた。嬉しいよ」
大紋はそう言って薫を欧米式に抱きしめ、頰に軽くキスを落とした。
身嗜みの良い大紋の上質なジャケットからは彼が愛用している舶来のトワレが香った。
大紋もまた国民服など着ずに、ショコラ色のツイードのジャケットをさらりと羽織っていた。
…世が世ならそのまま帝国ホテルにランチを食べに行けそうな服装だ。
どんなに世間の状況や戦況が逼迫しようと、自分の美学を悠々と守るところは父親の礼也に良く似ている。
だから薫は大紋に会うと安堵感に包まれるのだ。

挨拶を交わしたのち、薫はリュックの中の品物をマホガニーのテーブルの上に次々と置いた。
「軽井沢の母からです。
ハムとベーコンとチーズ…それからジャムと缶詰の果物とスープです。
くれぐれもお大事にと申しておりました」
…軽井沢の食料事情は東京より遥かに良かった。
縣家は浅間山に牧場を持っているから食料には事欠かない。
育ち盛りの菫のためにも疎開して良かったと薫は心から思った。
光は毎週山のように食料を送って寄越す。
もっとも薫への注意と小言だらけの長々とした手紙つきだが…。

「ありがとう。とても助かるよ。光さんによろしく伝えてくれ」
大紋の家も裕福だし、絢子の実家から様々な食料は送られてくるだろうが、大紋は自分の家の食料を教会や孤児院に寄付をしていた。
だからどれだけあっても足りないのだ。
そのことを暁人から聞いていた薫はまめに大紋家に食料を届けに行くようにしているのだ。
暁人が喜ぶであろうことは何でもしたかったからだ。


「…絢子。…君はココアにしなさい。
少しでもカロリーを取った方がいい。
薫くんはコーヒーにするかい?とっておきのモカマタリがある」
絢子には優しく、薫には朗らかに大紋は笑いかけた。
「ええ…。小父様」

大紋は家政婦にお茶の支度を命じると、絢子の肩に温かそうなカシミアのショールを掛けた。
「寒くないかい?絢子。もっと暖炉の近くの椅子にするか?」
きめ細やかに絢子の世話を焼く大紋は、いつものように優しいが…けれどどこか常ならぬ雰囲気が漂っていた。

「…いいえ、大丈夫ですわ。貴方」
傍らの夫を見上げて微笑む絢子は、とても美しいが…密やかに哀しげで今にも消え入りそうな風情を纏っていた。
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