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夜明けまでのセレナーデ
第10章 僕の運命のひと
「やめてください!そんな話!
僕は…僕は信じません!」
琥珀色の瞳を潤ませながら、薫は大紋を睨み付けた。

大好きな大好きな大紋に、こんなにも激しい感情をぶつけたことはない。
生まれて初めてだ。
けれど詫びる気はなかった。
薫は、このことだけは譲れないからだ。

「暁人は…暁人は生きています!
絶対に生きています!
だって僕と約束したんだから!
必ず!僕のところに帰ってくるって!
約束した…」
不意に温かな逞しい胸に抱き込まれる。

「薫くん…!」
抱きしめようとする大紋の胸元を拳で叩く。
「約束したんだから!暁人は約束してくれたんだから!
なのに小父様はなんでそんな酷いこと言うんだ!
暁人を忘れろなんて!
忘れられる訳ないじゃないか!
馬鹿!馬鹿!小父様の馬鹿!」
子どものように地団駄を踏む。
まるで幼稚な八つ当たりだと思いながらも、言葉が止まらない。
「小父様の馬鹿!
小父様が信じなきゃ、暁人は帰って来れないでしょう⁈
馬鹿!馬鹿!」
「…ごめん…!薫くん、ごめん!」
暴れる薫を大紋は強く抱きしめる。
…大紋の愛用のトワレが、薫をふわりと包み込む。

…少しも変わらない…小父様の懐かしい薫り…。
父様のように頼もしく温かい腕…。
懐かしくも愛おしい…暁人と過ごした日々が蘇る…。

…それなのに…小父様は、そんなにも悲しい覚悟をしていたなんて…!

「…私が悪かった…。
君を自由にしてやりたくて、酷いことを言ってしまった…。
…ありがとう、薫くん…。
君は本当にいい子だ…。
…そうだね…。暁人は、約束を違えるような子ではない。
必ず、君の元に帰ってくるだろう…。
私も、もう一度信じてみよう…。
…希望を捨てずに…」

子どもをあやすような優しい優しい大紋の抱擁を享受しながら、薫は堰を切ったように涙を流し続けた。




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