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sweet poison ~愛という毒に身を侵されて……~
第1章 茜陽一の仕事
「分かりました」

二人は真面目な表情になり、各々自分のデスクへ戻る。

陽一は緩む頬を撫でながら、ノートパソコンに向かう。

しかし耳の奥で、あの声が聞こえた。

『愛しているよ、陽一』

甘く柔らかな声は、未だに鮮明に自分の中で残っている。

震え出す体を抑え付け、陽一は仕事に集中しようとした。

しかしどうしても気が散り、休憩を取ることにした。

工場の現場は父の仕事、陽一は営業を担当していた。

営業と言っても時々駅やデパートで行われる物産展や、ネット販売での受け付け業務を行っていた。

最近ではこういう田舎の物産品が人気になっていて、工場の経営もなかなか良くなってきた。

町ぐるみで行っている為、売れ行きが伸びてきているのは嬉しいはずだ。

「なのに…何でお前の声が聞こえるんだよ」

陽一は軽く頭を振った。

黒く真っ直ぐな髪が顔にかかる。

父親譲りの黒い髪と眼、そして母親譲りの童顔は未だに二十三歳と名乗っても、首を傾げられた。

中肉中背が、余計に拍車をかけていると言っても良いだろう。

明るい笑顔を浮かべると、スーツを着ていても高校生に間違われることがある。

事務所を抜け、建物から出る。

工場の敷地内には中庭があり、昼休みなどはここで過ごす人も多い。

しかし昼下がりの今は誰もいない。

それが陽一にはありがたい。
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