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戦場に響く鈴の音
第6章 覚悟
「なあ、直愛…。」
無邪気な顔で眠る鈴の頭を撫でて聞いてみる。
「はい…。」
「こいつ、生きてるのが辛いのかな?」
俺の質問に直愛が怒ったように眉を顰める。
「それはないと思います。」
「けど、寝ようとしないとか飯を食わないとか…。」
「構って欲しいんですよ。」
「構って?」
「うちの妹も時々、そうでした。鈴殿は神路殿に構って欲しいのです。」
「だったら、そう言えば…。」
「言ってますよ。」
無言で鈴が抗議してると直愛は言う。
兄弟なんか居ない俺にはそんな感覚がわからん。
「やっぱり、直愛が鈴の面倒を見るか?」
俺には自信がない。
御館様だって俺では小姓を育てるのがまだ早いと言ってた。
「鈴殿が選んだ主は神路殿ですよ。私はあの子が梁間の小姓をしてる時から時々見てました。梁間と居る時はずっと人形のように座ってるだけの子でしたよ。話もせず、虚ろな表情で私達梁間の家臣を冷めた目で見るだけの子でした。」
何故、その時に鈴を助けなかったのか?
直愛の悔しさが伝わって来る。
「貴方は迷わず、この子を引き取った。私には出来なかった事をいとも簡単に…。だから鈴殿は神路殿を選んだのです。」
自分の言いたい事だけを言って直愛は俺の天幕から出て行く。
俺に構って欲しいなら少しは笑えよ。
寝てる顔は完全に天使だ。
その天使の髪を撫でれば眠ってた鈴がゆっくりと目を開ける。
「っ…!?」
目が覚めた仔猫は俺を睨んでから俺の膝の上から飛び退く勢いで俺を蹴る。
鈴に蹴られても俺は屁とも思わない。
その行儀の悪い足を掴んで鈴を無理矢理に俺の腕の中に押さえ込む。
「小姓が主を蹴るな。」
「鈴は直愛の天幕に戻る。」
「ふざけんな。お前の主は俺だぞ。」
「神路にとって鈴なんか要らない子だ。だったら鈴は直愛か神路のおっ父の小姓になる。」
キュッと小さな唇を結んだ鈴が呟く。