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戦場に響く鈴の音
第6章 覚悟
要らない子…。
この世の中にそんな子は存在しない。
それを認めた瞬間に俺や胡蝶や絖花は生きてる意味を失くしてしまう。
「義父の小姓になりたいのか?」
鈴を抱き締めて、それを問う。
鈴は俺の腕の中から抜け出そうと足掻いて踠く。
「神路は鈴を置いて行く。鈴なんか神路には邪魔なだけだと置いて行く。」
「邪魔じゃない。ただ、鈴を危ない目に合わせたくないだけだ。」
「危なくない。」
「危ないんだよ。もう、この辺りはいつ戦場へと変わったとしてもおかしくない状況だ。そうなれば生命を亡くす奴が山ほど出る。俺は鈴の生命を守る為に西元から連れ出したんだ。鈴を危険に晒す為じゃない。」
「だけど…。」
無表情な鈴が俯く。
鈴から感情が読み取れずに俺の中で心が痛む。
「お前が大切だから辛くとも留守番をさせる。俺はまだ屋敷を持たぬ半端者だ。大城主や義父の命があれば国中の何処にでも行かねばならん。」
鈴が理解するかはわからん。
俺の立場をわかって欲しくて言い聞かせる。
「この国も決して平和な訳じゃない。あちらこちらで戦が起きて危険な場所がたくさんある。そんな危険な場所に鈴を連れて行くくらいなら、鈴を御館様である義父の小姓にした方が俺はマシだと思う。」
だから義父の小姓になりたいと鈴が本気で望むなら…。
大人しくなった鈴の顔を覗き込む。
「この糞ガキ…。」
としか言い様がない。
あれほど毛を逆立てて反抗してた仔猫は天使の顔で眠ってる。
「人の話は聞け…。」
そう言って笑ってた。
鈴の前髪を指先で分けて額に口付けをする。
もしも、鈴が義父の小姓になりたいと願っても、きっと俺の方が鈴を手放せない。
この無邪気な寝顔が堪らなく愛おしい。