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戦場に響く鈴の音
第6章 覚悟
須賀の報告によると、それはあっという間の出来事だったらしい。
まさかの事態だった。
先にも述べたが西元城の由側は天音川が流れる。
その川は深さが人の股まであり川幅が広く、迂闊に渡ろうとする由の兵は西元城の天守から矢で狙い撃ちされるだけだ。
なのに笹川は僅か500の騎馬軍勢だけで西元の外堀となる天音川を越えて来た。
その馬から一斉に火矢が放たれた。
雨の様に降り注ぐ火矢に城内の火消しは追い付かず、余計な負傷者を出す前にとの羽多野の判断で一時撤退を余儀なくされる。
その際、殿軍(でんぐん)を引き受けた羽多野も負傷するが8000という兵は守られた。
「我らが撤退と同時に笹川は兵を引き、川向こうに本陣を構えて西元を見張ってます。」
須賀が悔しそうに報告する。
後から来た直愛ももう俺達に追い付いた。
今はとりあえずの軍議中…。
「この先はどのように?」
直愛が俺に聞いて来る。
この行軍の大将は俺…。
全てが俺の判断になるのはわかってるが俺の副将を直愛が名乗るのならば少しは自分の頭で考えろと言いたくなる。
「何もしねえよ。」
俺の返事に直愛と須賀が仲良く
「「はっ!?」」
とか言いやがる。
「はっ?じゃねえよ。何もしない。ひたすら守備の陣で本陣の守りを固めろ。もしも笹川が攻撃の陣を敷いたら真っ先に俺に知らせに来い。」
「ですが…。」
「今回の任は西元を取り戻す事であって由を攻め落とすという任ではない。」
「だったら…。」
だったら川向こうの笹川を即座に追い払うべきだと当たり前の意見を直愛が言う。
「自分もそう思います。」
須賀までもが直愛に同意する。
「負傷者を抱えた2万8千の兵でか?相手は5万だぞ。それとも、それを打ち破る良い策でもあるのか?」
俺の質問に直愛も須賀も口を閉じる。