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戦場に響く鈴の音
第6章 覚悟
兵の士気が上がった今が笹川を討つ好機だと考える武将が多いが、こちらからの攻撃は笹川との兵力差を考えれば兵の浪費にしかならない。
せっかく向こうがどっしりと構えてるのだから、こちらものんびりとやるしかない。
「しかし、西元城が失くなった今、こちらも籠城の策は通じませぬ。」
直愛がまた当たり前を言う。
野宿で兵を待機させるのは難しい。
それは笹川側も同じだ。
食料や水の問題、厠や風呂、生活に必要な物が無い状態で兵の指揮を維持するのは困難を極める。
脱走兵だって出かねない。
その条件だと俺よりも遥かに兵が多い笹川の方が不利なはず…。
なのに笹川はわざわざ本陣を川向こうに構えた。
「由から砦無しで西元を守る。その任から逃げたい奴は早めに言え…。」
俺は一方的に、それだけを言って軍議を無理矢理に終わらせる。
直愛と須賀が俺に対し不安や不満があるのはわかる。
だが、今は動く時じゃない。
雪南の準備が終わるまでの間、俺はとにかく西元という場所を死守すると決めた。
軍議を済ませて天幕に戻れば鈴が俺の傍に寄って来る。
「神路、疲れたか?」
椅子に座る俺の顔を背伸びする鈴が撫でて来る。
「鈴、これを持っておけ…。」
脚の長い机の上へ俺が置いた物に鈴は嫌な顔をする。
「要らない。」
「駄目だ。ここは戦場だと言っただろ。」
俺の言葉に鈴が泣きそうな表情へ変わる。
机の上にあるのは本来なら懐中に持つ短刀を鈴にでも使える様にと行軍に連れて来た刀鍛冶が脇差しに作り替えた物だ。
鈴が未だに刀を怖がってる事はわかってる。
しかし、この戦国の世で刀に怯えてては生きてはいけない。