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戦場に響く鈴の音
第6章 覚悟
「鈴、よく聞け。この戦場で万が一の時はお前がこれで俺を切らねばならん。」
俺の言葉に鈴が信じられないものを見たように目を見開く。
「俺を切った後、お前は逃げろ。逃げて燕で帰りを待つ義父に俺の最期を伝えるのがこの戦場について来たお前の役目となる。」
残酷な命令だと思う。
それでも、それが戦場において主に付き添った小姓の役目だ。
敗戦の将はどの道、首を切られて殺される。
最期の情けとして主が信じた小姓が主の最期を見届けて、それを国に知らせるものだと御館様が俺に言った。
あの時の俺は8つ…。
それよりも更に小さな鈴に向かって俺は戦場での小姓の立場を無理矢理に教え込む。
「や…だ…。」
カタカタと震える鈴が声を振り絞る。
蒼白な顔…。
完全に怯えてる。
「嫌なら負傷者と共に天音へ向かえ。今はそこに雪南が居る。お前はそこで留守番をしろ。」
「やだっ!」
「鈴、選べ。戦場で俺を切る為に残るか今すぐに逃げ出すか…。」
「出来ないよ…。」
「出来ないじゃない。しなければならないのだ。それが戦というものだ。」
「鈴が居たら邪魔なの?」
「主を切れない小姓は邪魔だ。」
鈴の大きな瞳から一滴の水滴が流れ落ちる。
紅く膨らむ柔らかな唇は鈴の白い歯に噛み締められて傷が付く。
泣かせたい訳じゃない。
なのに俺は鈴を泣かせる。
最悪の主だと自分が情けなくなる。
御館様のように鈴に教えてるつもりなのに、鈴は悲しい瞳で俺を見る。
鈴が辛いと思うならば俺から逃げれば良い…。
そう俺が願った瞬間、鈴が机の上の脇差しを手に握り刀を鞘から抜き俺の方へ向けて来る。
「鈴が切れば良いのだな?」
鈴の眼が光る。