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幻の果てに……
第6章  衝撃


 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆


 昼間に静香からの呼び出しで、カラオケボックスへ行った。
 こんな場所へ来るのは珍しい。会社勤めをしていた時、忘年会などの二次会で行ったきり。
 指定された部屋へ入ると、私を見た静香が立ち上がる。
「梨央……」
「どうしたの?」
 部屋の中には、機械からの紹介曲が勝手に流れているだけ。
「飲み物、頼んで……?」
 静香は、もうジュースを飲んでいる。
 私もジュースを頼み、届くまで静香は無言。
「静香?」
「妊娠したの……」
 一瞬、何も言えなかった。
「分かんないの。誰の子か……」
 静香は顔色が悪かったが、私まで血の気が引いていく。
「分かんないって……?」
「ん……。夫の子か、あの店で会った人か……」
 ゆっくり言った静香が、溜息をつく。
「一度、酔って、ナマでやっちゃって……。その後、夫ともやったから。分かんない……」
 静香が泣き出す。
 こんな話のため、誰にも聞かれない場所を選んだんだろう。
「今、二ヶ月だって……」
 以前は私が望んでいたこと。
 悲劇だろうか。
 喜劇だろうか。
 幻が、現実になってしまうなんて。
「どうするの……?」
 聞いたが、解決策は一つしかない。
 そのまま子供を産めば、誰の子か分からないまま一生育てることなになる。
 産めば愛情を持てるとは聞くが、何らかの原因で夫の子じゃないと分かったら。
 静香もその子も不幸になる。
 可能性は1/2でも、人生の懸けになる。二つの人生の。
「梨央。半分くらいでいいから、お金、貸してもらえる……?」
 その言葉で、静香の決心が分かった。
 堕胎しかない。
 夫の子供かもしれない。
 でも、あまりにもリスクが大きい。
 どうして避妊せずに、とは思ったが、今更言っても仕方ないこと。
 それに静香なら、避妊薬くらい知っていると思った。
「今は持ってないけど、銀行に行けば……」
「必ず返すから。私の場合、まとまったお金使うと、すぐバレるから……」
 あの店へ行くくらいの金額なら、少しずつ誤魔化せば何とかなるだろう。
 でも、堕胎手術となるとそんな額では済まない。



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