この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
幻の果てに……
第1章 誘惑
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
『梨央の相手、結構イケメンだったじゃん』
翌日静香に電話すると、そんな第一声。
「静香は、よく行くの? あの店……」
『んー。たまにかな。だって、ダンナだけじゃ、つまんないでしょ?』
軽く言われると、不思議な気持ちになる。
結婚したなら、セックスは夫とだけするもの。それが一般常識。
『ウチのダンナ、下手なんだもん。付き合ってた頃は、もっと丁寧だったのに』
静香の大学時代からの恋人は、何人か知っている。でも決して静香本人は男にだらしなくはなかった。
他愛ない話をしてから通話を切り、ソファーへ座る。
考えてみれば、私は昨夜凄いことをしてしまった。夫が長く留守をしているとはいえ、他の、会ったばかりの男性とセックスするなんて。
私はそんな女じゃないのに。
そう思っても、事実は事実。
夫と以上に乱れ、いやらしい言葉も口にした。
生活に、不満は無い。
夫は平均以上の給料を貰うし、振り込みもちゃんとしてくれる。そんな夫を、裏切ってしまった。
子供がいないのだって、夫の責任じゃない。調べてはいないが、私に何かあるのかもしれないし。
昨夜、和彦とは連絡先を交換しなかった。
セックスが終われば目が覚め、後悔に苛まれたから。
夫には、絶対に知られてはいけない。でも私が言わなければ、バレることはないだろう。
昨夜は、一夜限りの幻。
壁のカレンダーを見ると、夫が戻るのは一ヶ月も先。
今すぐ会えば不自然な態度になってしまうかもしれないが、一ヶ月も経てば忘れられる。
あれは、夢だったと。
そう信じるしかなかった。
◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆
一週間して、私は繁華街にいる。
今日は一人。
どうして、来てしまったんだろう。
近くのファストフード店へ入ると、恋人らしき若者が楽しそうに話している。
私にも、あんな頃があった。
ただ話しているだけで楽しくて。時を忘れるくらいに。この人となら、ずっと一緒にいたい。そんな思いで結婚した。
でも今の私は、広い家に一人切り。
それが凄く淋しかった。
二十代の子から見ても、私はもうオバサン。