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狼に囚われた姫君の閨房録
第29章 近藤勇、狙撃
「邪魔するぜ」 
父には最も広い居間が与えられている。襖の向こうに左之助が言葉を投げると、良順の抑えた声が応じた。
「お入りください」
弾を摘出したのだろう。入室するや否や、盥の真っ赤になった水が飛び込んできた。
上質な布団に寝かされた父は、頭も肩も包帯を巻いて蒼白だ。
「弾はすべて取り除きました」
良順の声音は重々しい。
「命に別状はありませんが、肩を砕かれています。おそらく、今後、刀を持つことは……」
不可能だ、との言葉を良順は飲み込んだ。
武士とは、刀を握ってこそのもの。父の心情を思うと、私は泣くに泣けない思いだった。
「親父は大阪城で療養させることにする」
枕元で、歳三が言う。これ以上ないほどの厳しい視線は、父の寝顔に注がれている。
「総司も一緒だ。病状が悪化している。大阪城なら、満足な治療が受けられるだろう」
そして、歳三は私を見据えた。
「すみれ、お前も同行しろ。二人の看護にあたれ」
「これから、戦になりますのに……」
「だからこそだよ」
左之助が私の肩を引き寄せた。
「捕り物や粛清とはわけが違う。俺たちも生き残る保証はねえ。お前を連れて行くわけにはいかねえよ」
戦となれば、私はお荷物にしかならない。兄たちのように戦うことはできまい。
「……承知しました」
私はそう言うしかなかった。
「御武運、お祈りいたしております。ご無事でお帰りになりますように」

伊東派の残党は取り逃した。
あと一歩のところまで追い詰め、薩摩藩邸に逃げ込まれて新八が引き渡しを要求したが、薩摩藩は応じなかったと言う。
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