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狼に囚われた姫君の閨房録
第32章 試衛館での出会い
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【第三者視点】
夜が更けた。近藤勇と土方歳三は客を連れて戻ってきた。
絹の羽織に目だけを出した頭巾。どこのご大身か?恰幅も良く、目元は厳しい。
「あなた様はもしや……」
山南敬助が腰を浮かせた。勇が答える。
「彦根藩藩主・井伊直弼さまだよ」
「彦根藩の藩主?マジ?」
平助が叫び声を上げると、
「徳川四天王じゃねえか。なんで、こんなみすぼらしいところに……」
新八が慌てふためいた。
「見窄らしいって、言ってくれるじゃない」
唇を尖らせる総司に、勇が快活に笑った。
「怒るな。本当のことだ」
天井には雨漏りのシミがあり、畳は綻びている。廊下も穴だらけだ。
「俺たちを集めさせたのって……」
左之助が井伊直弼を窺う。
「予だ」
直弼は上座に座り、頭巾を取った。ゆっくりと、全員を見渡す。
「他でもない。そこもとたちは特殊能力者であったな?」
全員の顔色変わった。
特殊能力者は異端児を意味する。家族にも秘しているほどだ。
「恐れながら……いずれからその話を?」
斎藤一が尋ねると、直弼は唇に笑みを刻んだ。
「予も能力者だ。わからずしてなんとする?」
「殿には予知能力があられる。十二歳のすみれ姫を守ってほしいとの思し召しだ」
歳三が説明すると、
「数年後、予は凶賊によって命を落とそう。その際、姫を救出してほしい。予の生死には構うな」
低く、重い声。直弼は自身の運命を悟り、受け入れている。
「近藤勇の養い子とするように、話もしてある。すみれを守ってもらいたい。姫の修羅の魂が目覚めぬように」
「……修羅の魂とは?」
総司が息をつめて問いかける。
「すみれには二つの魂がある。菩薩のような清らかな魂。そして、修羅の悪しき魂じゃ」
木枯らしが強くなった。雨戸がガタガタと音を立てて軋んだ。
「修羅の魂が目覚めた時、この世は暗黒と化そう」
「その修羅の魂は……封印されてるか、眠った状態にあると?」
と、山南。
「その方たちならば、封印をし続けられよう」
「頭数がいるからな。それで、集めたというわけだ」
歳三の言葉に、一同はお互い顔を見合わせた。
招集された理由はわかった。力を合わせれば、封印を持続させることは可能であろう。
だが。
「我らが封印しきれず、修羅の魂を目覚めさせてしまった時は……」
一が膝を進めると、直弼は動じることなく言い放った。
「その際は、すみれの息の根を止めよ」
夜が更けた。近藤勇と土方歳三は客を連れて戻ってきた。
絹の羽織に目だけを出した頭巾。どこのご大身か?恰幅も良く、目元は厳しい。
「あなた様はもしや……」
山南敬助が腰を浮かせた。勇が答える。
「彦根藩藩主・井伊直弼さまだよ」
「彦根藩の藩主?マジ?」
平助が叫び声を上げると、
「徳川四天王じゃねえか。なんで、こんなみすぼらしいところに……」
新八が慌てふためいた。
「見窄らしいって、言ってくれるじゃない」
唇を尖らせる総司に、勇が快活に笑った。
「怒るな。本当のことだ」
天井には雨漏りのシミがあり、畳は綻びている。廊下も穴だらけだ。
「俺たちを集めさせたのって……」
左之助が井伊直弼を窺う。
「予だ」
直弼は上座に座り、頭巾を取った。ゆっくりと、全員を見渡す。
「他でもない。そこもとたちは特殊能力者であったな?」
全員の顔色変わった。
特殊能力者は異端児を意味する。家族にも秘しているほどだ。
「恐れながら……いずれからその話を?」
斎藤一が尋ねると、直弼は唇に笑みを刻んだ。
「予も能力者だ。わからずしてなんとする?」
「殿には予知能力があられる。十二歳のすみれ姫を守ってほしいとの思し召しだ」
歳三が説明すると、
「数年後、予は凶賊によって命を落とそう。その際、姫を救出してほしい。予の生死には構うな」
低く、重い声。直弼は自身の運命を悟り、受け入れている。
「近藤勇の養い子とするように、話もしてある。すみれを守ってもらいたい。姫の修羅の魂が目覚めぬように」
「……修羅の魂とは?」
総司が息をつめて問いかける。
「すみれには二つの魂がある。菩薩のような清らかな魂。そして、修羅の悪しき魂じゃ」
木枯らしが強くなった。雨戸がガタガタと音を立てて軋んだ。
「修羅の魂が目覚めた時、この世は暗黒と化そう」
「その修羅の魂は……封印されてるか、眠った状態にあると?」
と、山南。
「その方たちならば、封印をし続けられよう」
「頭数がいるからな。それで、集めたというわけだ」
歳三の言葉に、一同はお互い顔を見合わせた。
招集された理由はわかった。力を合わせれば、封印を持続させることは可能であろう。
だが。
「我らが封印しきれず、修羅の魂を目覚めさせてしまった時は……」
一が膝を進めると、直弼は動じることなく言い放った。
「その際は、すみれの息の根を止めよ」
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