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狼に囚われた姫君の閨房録
第33章 江戸城無血開城
西郷吉之助とは初対面である。勝海舟のいうには、巌のような男だという。
(なるほど、たしかに……)
西郷吉之助が現れると、茶釜の前で私は呼吸をつめた。
薩摩の総司令官と真正面から対したい。天璋院さまに頼んで茶を点てる役にしてもらった。
「お邪魔をいたします」
西郷は一礼すると、膝をそろえて座った。
礼儀正しいが、黒で統一した軍服に威圧感があった。腰に下げた刀はサーベルというものか?
「ようこそ、おいであそばしました。拙い手前ながら、一服召し上がりませ」
私が言うと、西郷は袱紗包みを開いた。上等な絹織物だ。
「些少ながら、手土産を持参し申した。ご笑納くだされば、光栄に存ずる」
薄紙に包まれていたのは長方形の練り菓子である。
明るめの山吹色。素朴な甘い匂いが漂う。
「芋羊羹とは懐かしいこと」
天璋院さまが微笑むと、和宮さまも目を輝かせる。
「まあ、食したことがござりませぬ」
「篤姫さまは殊の外、これをお気に召していたと聞き及んでおりまする。戦火の中とはいえ、職人が精魂込めて作りました一品。どうか、お納めを」
「ありがたくおさめましょう。すみれ姫、茶の支度を」
天璋院の言葉に私は素直に頷くと、高麗の茶碗に抹茶をいれてたぎった湯を注いだ。
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