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狼に囚われた姫君の閨房録
第34章 近藤勇、処刑
原っぱの処刑場を夕陽が照らす。結わえられた竹矢来には、野次馬が群がっていた。
地面に掘られた大きな穴。側には、茣蓙が敷いてあった。
刑場を取り巻く野次馬から、ざわめきが起きた。
「きたぞ、近藤勇だ!」
「あれが新選組の局長か!いかつい顔してやがる」
お高祖頭巾を被った私は、身を乗り出した。
荒縄で繋がれた父が現れた。
角ばった顎には無精髭が生えていた。一文字に結ばれた分厚い唇。背筋を伸ばし、前を見据えて歩いている。
「お父上さ……!」
呼びかけようとした私の口を、主計が手で抑えた。
「……我々が新選組だと知られてはまずい」
処刑場のあちこちには見張りがいる。新選組が局長を奪い返しにくるとの噂があるからだ。
後ろ手に縛られた父は茣蓙に跪き、首を穴に伸ばした。
その時、私と目が合った。
(すみれ……世話になったな)
心の声が流れ込んできた。
(大老に見出され、お前の養い親となったことは名誉だった。共に過ごした日々は忘れんぞ)
(私の方こそ……私こそ……)
だめだ、涙が出そうだ。取り乱さないと誓ったのに。
(縁もゆかりもない私を引き受けて、可愛がっていただきましたこと……生涯、忘れません)
(俺はこの世に別れを告げるが、肉体は滅んでもお前のことは守るからな)
次の瞬間、勇は声を張り上げた。
「お願い申す!」
処刑人の太刀が一閃した。勇の首が胴体と離れ、穴に落ちた。
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