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狼に囚われた姫君の閨房録
第37章 鶴ヶ城の悲劇(前編)
鶴ヶ城に着いたのは、六月の末。白河口の戦いが終わった直後であった。 
風はやや冷たいが、陽射しは柔らかかった。
「何をしにきたのだ?」
城内で私を見るや、斎藤一は顔色を変えた。銃の訓練をしていたところだ。
一は会津藩士らを解散させ、竹の濡れ縁に座る。
「城もやがて戦場となろう。死にたくなくば去れ」
「いやです」
想定内の反応である。私は突っぱねた。
「命が惜しいのに、わざわざ来ましょうか?新選組の終焉、見届けとう存じます」
「兄上が命じたのか?」
「いいえ、独断です」
「ならば、戻れ」
「嫌でございます」
「まあまあまあ」
三樹三郎が苦笑して割って入ると、一はあからさまに睨め付けた。
「なぜ、貴様までいる?」
「ご挨拶だな。すみれをわざわざ送ってきたんだぜ」
「頼んでおらぬ」
「お前のためじゃねえ。こいつのためだ。俺たちは夫婦だからな」
「なんだとっ」
「こいつは俺の嫁なんだよ。なあ?」
私の肩に手を回す三樹三郎。私は振り払った。
「違います。兄上さま、私は……」
「違わねえよ。俺たちは同衾もした仲でな」
「関所を抜けるための方便だろう。夜伽も驚くには当たらぬ」
一は相手にせずに、紫色の瞳を私に向けた。
「左之助兄さんと新八兄さんを知らぬか?父上の首を奪ったはずだが、消息がわからん」
たまらず、私は目を逸らした。あの状況で二人が生き延びたとは思えない。
それが伝わったのか、一は声を落とした。
「……そうか」
「歳三兄上さまは?」
私は話を変えた。
「お姿が見えません。ご一緒ではないのですか?」
歳三だけではない。主計や利三郎もいなかった。
「兄上は宇都宮の戦いで瀕死の重傷を負われた……」
「えっ!?」
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