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狼に囚われた姫君の閨房録
第39章 鶴ヶ城の悲劇(後編)
【第三者視点】
如来堂を十重二十重に囲む軍勢を、一は格子窓から眺めていた。その姿はどこまでも静謐であった。 
胸に去来するものは、新選組として戦った過去か?
それとも……
「覚悟が決まったって顔だな」
背後で三樹三郎が言った。全身が返り血と泥で汚れている。手傷を負っているが、闘争心は漲っていた。
「外の連中、降伏しろってうるせえが、どうする?」
「すておけ」
一が言い捨てると、三樹三郎は唇を歪めて笑った。
「そういうと思ったけどな。日没までに降伏しないと、全面攻撃だとさ」
「こちらも打って出るまでだ」
「玉砕覚悟でか?」
「むろん」
「すみれはいいのか?城にいるんだろう?」
「別れはすませた。思い残すことはない」
一はあくまで平静だった。ふっと表情を和らげた。
「なぜ、そんなことを聞く?」
「おまえが死んだら、すみれが悲しむと思ってな」
「あいつも大老の姫だ。取り乱しはすまい」
一が言い切った時、外から大声で呼びかけがあった。
「立てこもっている諸君に告ぐ!諸君らはよくやった。大人しく投降すれば、命の保障をしよう!!」
応えるものはいない。それどころか、みな、刀に手をかけた。
「バカにしおって!」
「降るほどなら、討ち死にするわ!!」
全員、満身創痍に近い。万に一つも勝ち目はない。
なのに、この溢れる闘志はどうだろう?
「やむを得ん。攻撃を開始する!」
外で声がした。
同時に、一が叫んだ。
「総員、抜刀!俺に続け!!」
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