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狼に囚われた姫君の閨房録
第16章 池田屋事件(後編)
「ゴホッ!ゲホッ!!グフッ!!!」
総司の口から咳と吐血が止まらない。背中を丸めて喀血する総司の口元に、私は手拭いを当てた。
「……何しにきたのさ……」
総司が声を絞り出す。
「君の……持ち場は……」
「話さないで!血が止まらない」
「労咳か……」
稔麿が刀を下げて、私と総司を見下ろしていた。私が総司を庇うように懐剣を向けると、稔麿は手で制した。
「高杉晋作と同じ病か。かなり、進行しているようだな」
「進行……労咳が?」 
労咳とは肺を冒す不治の病だ。かかったら、まず助からない。
そんな病に総司がかかっていたなんて!
あまりのことに、目の前の景色が歪んだ。
「どうして、黙っていたんですかっ」
思わず、そう言っていた。
「うるさい……君には関係ない……そこのあんた……さっきの続きするよ……かかってきな」
総司が震える手で刀を構える。
稔麿は素知らぬ顔で突っ立っている。
「つまらん」
「……何」
「その体で、何ができる?見逃してやるから、下がってろ」
押しのけて階段に向かおうとする稔麿を、総司は腕を掴んで制止した。
「行かせない……僕はここを託されたんだから……相手になってもら……」
また、総司の口から多量の出血。激しく咳き込み、総司はその場に突っ伏した。
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