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狼に囚われた姫君の閨房録
第16章 池田屋事件(後編)
「お待ちください!」
私は懐剣を手に、稔麿の前に立ちはだかった。
「行くなら、この私を倒してからにしてください!!」
突っ伏した総司の口から血が流れ続け、床を真っ赤に染めていく。
顔面蒼白な痩せぎすの体。腕も脚も、筋肉が落ちている。
どうして、気づかなかったんだろう?
総司は近ごろ食欲も落ち、お酒も飲まなくなっていたというのに。
(我ながら、ふがいない……)
「病人の次は女か。新選組はよほど人材不足のようだな」
稔麿はつまらなそうに吐息した。
「女子供に向ける刃は持たぬ。退け」
「どきません」
「退け」
「松下村塾塾生・吉田稔麿!目前に師の仇がいるのに、とらぬというか?」
私は声を張り上げた。
稔麿の眉が寄せられる。
「私は井伊直弼が姫、すみれ。吉田松陰を死に追いやった男の娘じゃ!」
「井伊の姫だと?」
「そうじゃ。このすみれの首を取り、師の墓前に添えるが良いわ!」
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