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片時雨を抱きしめて
第4章 第四章 痺れ
悲しみなのか、怒りなのか、恥ずかしさなのか、もう私の気持ちがなんなのかはわからない。憧れに近かった恋心は、あの日を境に、もう私の言葉ではあらわせなくなった。
ただ、今は、先生が近くて、熱い。エアコンのきいた部屋がへんに暑くて、熱くて、熱にほだされた私の身体は、もう頭と連携はとれていないのだ。
ほしいものを、ほしいままに、私の身体は、夢遊病者のように意思に反して動く。

ピンと張りつめていた糸が、切れる。


私の体は迷いもなく、先生との距離をゼロにした。


「ちょ、っ、ん」

私の手の平は先生の頬に添えられ、先生の顎をくっと上げた。
私は馬乗りになる形で、先生の膝にまたぎ、その少し乾燥した唇をひらき、その粘膜をむさぼった。


ずっとほしかった。毎日、毎日毎日。あまりにも平穏で、温厚で、あの日の夜はもう本当に夢だったんじゃないかと何度も思った。記憶の隅に、その記憶の持ち主に隠れるように、存在したあの日の。

頭の中はもう言葉にならない感情が、むきだしのままうごめく。ああ、もっと、もっと、

もっと

もっと困らせたい。


私のあの日の恋心は、もう言葉にならない感情へと進化したのだ。
くゆらせた気持ちは、一度たかが外れればもう。

「わた、や」

息継ぎの間に発せられる言葉と、それに伴う吐息がかかる。先生の拒絶が、徐々に、増す。

私はそれに負けじと、先生の後頭部を左手で抑え、舌をもっと奥へともぐりこませる。先生のくぐもった声が、唇の振動からわかる。ぐっと、先生の顎をあげると、また苦しそうな声がきこえた。

「つき飛ばせばいい。嫌なら、つきとばせば、」

舌がまだ先生の口内に残っているのに、私は無我夢中でその拒絶に応える台詞を言う。つき飛ばせばいいのだ。私を住まわせて、私に優しくして、私に毎日笑い掛けて、私に指一本も触れずに、そんな仕打ちを、あなたは。

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