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第2章 チャプター02

「ダメ」
　郁美は、男から顔を逸らした。
「キスは……キスだけは、止めて」
　本当に好きな人としかキスをしないーーそう、決めているわけでは決してない。が、ここでキスをされるのは危険だった。
　キスをすれば、歯止めが効かず、どこまでもこの男に身を委ねてしまう可能性があった。どこかで、抑えをつけなければ、堕ちてしまいかねない。
　男は強引に、唇を寄せてはこなかった。
「体は許しても、心は許さないってわけか。だが、どこまでその痩せ我慢が通用するかな」
　男はタンクトップをめくり上げると、生地を郁美に咥（くわ）えさせた。
(い……痛い！)
　男に胸をわしづかみにされ、郁美は身を引いた。口はふさがれたままなので、相手を睨みつけた。
　が、男は構わなかった。郁美を壁に押しつけると、再び、胸を乱暴に揉んできた。大きくはないが、形のよい郁美のおっぱいが、男の手によって、さまざまな形にたわんだ。
　荒々しい男の愛撫に、郁美は言葉もなかった。電車の中で受けた、郁美の奥深いところで眠っていた官能を目覚めさせるような愛撫とは、まったく異なっていた。もともと、この男のセックスは荒々しいもので、暴力的に女を屈服させる類（たぐい）のものなのかもしれない。そう考えると、男に抵抗するのはあまり、得策ではないのかもしれない。
　時折、郁美はオナニーをする。その内容は、暴力的に強姦されたり、輪姦されたりといったものが多かったので、郁美は男を恐れるのと同時に、興奮もしていた。
　やがて、男は胸を揉むのに飽きたのか、乳首を口に含んできた。舌先で弾いたり、吸いながら全体を舐め回したり、または歯で軽く噛んだりしてきた。もともと、胸が弱いこともあるが、さっきとは異なる優しい愛撫に、郁美は背筋がゾクゾクとするのを感じた。
　男が責めるのは右の乳首だけで、左は乳首に決して触れず、指先で乳房を軽くなぞるだけだった。郁美は男に弄（もてあそ）ばれながら、じっと観察されているのを感じた。郁美の性感帯を探り当てようとするのと同時に、彼女の反応を楽しんでいるようだった。
　やがて、男の指先が左の乳房の下半分あたりに梳（す）くようにして触れてくると、郁美は声をもらしそうになった。