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朏の断片‐ミカヅキ ノ ダンペン‐
第6章 #5
例えばの話。喧嘩をしただとか、試験期間中であるとか。そうした何かがあったならまだしも。何の前触れもなしに片桐の日常から上田がすっぽり消えてしまった。
河川敷公園で練習のある日は欠かさず見に来ていたし、部屋の合鍵を渡してからはちょくちょく遊びに来ていたのだから、それはもう片桐にとっては日常だったのだ。いて当たり前になっていた上田がいないことは非日常で、その理由がわからないということは大きなストレスだ。
心配、不安、数え上げればキリがないが、こんな事態になって初めて気付いたことがある。
片桐は上田の住む家も知らなければ、足繁く通っていただろう病院もどこかわからない。学校は知っていたがそんなところに問い合わせるのも常識的ではない。
――つまりはこちらからはなすすべがない。
「八方塞がりやな……」