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朏の断片‐ミカヅキ ノ ダンペン‐
第6章 #5
いや、手段はあった。本当は知っていた。片桐が風邪で寝込んだあの日、上田は片桐の携帯を使い自宅に電話をかけている。履歴はたぶん、まだ残っている。
にもかかわらず、未だにそれを出来ずにいる。一言どうした?と声をかけるだけのことが非常にはばかられる。
電話には上田の家族が出るかもしれない。片桐のことをどう話しているかわからない。男としての上田に電話をかけて問題ないかどうかさえわからない。
――というのは言い訳だ。上田本人が電話に出たとして。片桐の前に現れなくなった理由を聞くのは怖い。もう興味をなくしただけかもしれない。
失恋を認めるだけの覚悟は。まだない。