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籠の中の天使
第11章 散る花
「デートの定番は、やっぱ水族館だ。」
私の手を離さない峯岸君がはしゃぐ。
違うよ。
これはデートじゃありません。
私の言葉に耳を貸そうとしてくれない峯岸君は私の手を引いてどんどんと水族館の奥へ入ってく。
「とりあえず、昼ご飯にしよ。」
いきなり水族館内にあるレストランに向かって歩き出す。
「魚…、見ないの?」
「ここのシーフードバーガーが美味いって評判なんだ。でも魚なんか見ちゃうと食えなくなりそうじゃん。」
峯岸君はケタケタと笑う。
だったら食べなければいいのに…。
知れば知るほど峯岸君の感覚と私の感覚にズレを感じて落ち着かなくなって来る。
「咲都子もしっかり食えよ。咲都子って痩せ過ぎてて心配になる。」
「上地さんも痩せてるよ。」
「上地なんか咲都子に比べたらゴリラだよ。向井は美人だけど性格悪いし…。茂はMだから向井に耐えられるけど、俺はあんな女と付き合うとかお断りだ。」
「向井さんは…、優しいよ。」
「咲都子の方が優しい。だから好きなんだ。俺、咲都子の為ならなんでもする。」
ご機嫌な峯岸君がお魚の味がするハンバーガーに齧り付く。
私の事なんか何にも知らない峯岸君が私を好きだと言い切る違和感は、どうしても好きになれない。
峯岸君は私を大人しいだけのお人形だと思ってる。
お人形を自分の世界に閉じ込めて1人で喜んでる峯岸君に悲しい気持ちしか湧いて来ない。
早めのランチをしてから、改めて水族館を見学する。
「すげー、咲都子。こっちの魚…、焼いたら美味そうじゃん。」
アジの群れに向かってそう言う峯岸君が馬鹿に見える。
ランチに魚を食べたばかりだよ…。
吐き気が込み上げて来て嫌な気持ちにしかならない。