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籠の中の天使
第11章 散る花
峯岸君が私の手を離して立ち去った。
デートの定番だと言われた水族館を観て周り、日暮れまで1人ぼっちで過ごした自分が馬鹿みたいに思える。
帰ろう…。
電車に乗ってあの街へ帰る。
いつものように『たこ八』に向かえば、知らない男の人がお店に立ってるのに気付く。
私が自転車を置いた時はまだお店が開いてなかった。
お店を覗いておばさんの姿を探す。
いつもならお店の前に立ってるのはおじさんのはず…。
狼狽えてお店の中を覗こうとする私に知らない男の人が
「たこ焼き?何人前?」
と聞いて来る。
山のように大きな人…。
でも南斗よりも若いと思う。
がっちりとした身体…。
はち切れそうなTシャツの袖からは南斗の2倍はありそうな太くて長い腕が伸びてる。
いつもの私なら怖くて逃げ出してるのに…。
その人から目が離せずに、じっと見てしまう。
燃える様な真っ赤な髪…。
裾だけが伸びた軽いロン毛が風に靡く。
炎の様な瞳…。
穢れを寄せ付けない瞳がガン見してる私を見返して来る。
全てが整っててカッコいいと思う人…。
雑誌から飛び出して来たようなカッコいい男の人はこの古びた街に似合わない。
「何?買わないの?」
その声にドキドキする。
お腹にまで響く低い声…。
知らない人なのに…。
知ってる人みたいな温もりを感じる。
「あの…、おばさん…。」
それだけを言うのが精一杯の私を男の人がクスリと笑う。
「おばちゃん、お客さんだよ。」
男の人がお店の奥に声を掛けてくれる。
『たこ八』にはお店の中に子供が5人ほど座ると満席になる小さなイートインスペースがある。
「あら、咲都子ちゃん、いらっしゃい。」
イートインスペース側の扉を開けたおばさんが私の方に声を掛けてくれる。