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籠の中の天使
第7章 知られたくない
「俺のウニと相原のイクラをちょっとだけ交換してよ。」
話を誤魔化すように峯岸君が言う。
「全部…、食べてもいいよ。」
もう食欲なんかない。
「イクラ貰いっ!」
茂君がお代わりのご飯を貰いに行く。
「うちの兄貴が引き籠もりってやつでさ。だから頑張って毎日、学校に来てる咲都は偉いと私は思う。」
私だけに聞こえる小さな声で向井さんが言う。
「ありがとう…。」
こんな私を理解してくれてありがとう…。
感謝の気持ちすら、ちゃんと言えない自分を歯痒いと思う。
向井さんの強さに憧れる。
上地さんは私を見ずに朝食を済ませる。
だって上地さんの視線はずっと峯岸君を追ってる。
その視線が怖くて私は目を逸らす。
ここから逃げる事ばかりを考える。
どれだけ悩んでも私が逃げ出す事なんか許されず、私達は朝食を済ませてバスへと乗り込んだ。
「皆さん!おはようございます。」
これまで静かだったバスガイドのお姉さんが張り切ってマイクを握りバスの一番前に仁王立ちする。
「朝食はしっかりと食べましたか?今日は歴史的建造物などの観光をしますから頑張ってついて来て下さいね。」
と元気なお姉さんの観光案内が始まれば
「このバスー、病人が居るから、静かにして下さーい。」
と意地の悪い岡村さんの声がする。
「え?病人…?」
バスガイドさんが狼狽える。
「大丈夫です。続けて下さい。」
千紗先生がバスガイドさんのフォローをする。
気を取り直して…。
「えー…、皆さんは柳野城をご存知ですか?通称『五稜郭』、ここは日本の歴史の中で最も重要なポイントになった場所で…。」
そんなガイドが始まると
「このクラス、世界史専攻だから日本の歴史に興味なーい。」
と茶化す声がする。
犯人は達也君だ。