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籠の中の天使
第8章 楽しかった?
早月先生を学校に送り届けた後は、北斗さんがお医者さんの表情に代わる。
「ちょっと、病院に行こうか。」
私が熱を出したからだ。
持田病院は産婦人科だけど北斗さんはカウセリングの資格を所有してるので心療内科の役割も務めてる。
初めての妊娠や出産で鬱になる患者さんや、あの街の女の子の中にはトラウマを持つ人が居るからと北斗さんはメンタルケアが出来るお医者さんになった。
心に傷を負った私の主治医なのはその為で、定期的に北斗さんの診察を受けてる。
病院に着くと北斗さんと私は診察室ではなく、2人だけになれる談話室に入る。
「修学旅行の話をしてくれるかな?」
北斗さんにそう言われて修学旅行がどんなだったかを話す。
「クラスメイトがね。市場で凄く上手くカニを値切ってくれたの。だから北斗さんや病院の分もカニを買って、オマケにウニとかイクラとかいっぱい付けて貰えて嬉しかった。」
バスの運転手さんに貰ったチョコレートが美味しかった話…。
五稜郭が桜の季節じゃなくて残念だった話…。
大したエピソードもなく、いっぱいいっぱいでも私なりに楽しかった修学旅行の思い出を話す。
「咲都子ちゃんはそれなりに楽しかったんだね。」
「うん…。」
「他にまだ話す事はある?」
そう聞かれた途端に息が詰まる。
何かが私の心臓を鷲掴みにした様な感覚に陥る。
厳しい表情をして私を見る北斗さんを目を見開いて見れば、その目からは大粒の涙が零れ落ちる。
「北斗…さん…。」
「大丈夫…、ゆっくりと息をして…。」
私の頭を撫でながら北斗さんが私の顔を自分の白衣の胸に引き寄せて抱き締める。
「他に何があった?」
徐な質問…。
「楽しかったの…、でも怖かった…、どうしても…どんなに頑張っても怖かったの…。」
堰を切ったように私の瞳から涙は溢れ出し、小さな子供のようにわんわんと声を上げて泣く。