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恍惚なる治療[改訂版]
第16章 仄暗い空間の中で

「そういえば、ギプスを外してからの右手の具合はどうですか?」
「時折鈍痛はあるけど、我慢出来る程です。生活には支障も無いです。ただ、1ヶ月使ってなかったので、箸の使い方がぎこちないですね」
「そうですか。特に困ってないようで安心しました」

まだ開場まで時間があるので、シネマの近くにある雑貨屋へ。

「晩ご飯はどこに連れて行ってくれるんですか?」
「それは…まだ内緒です」
「へー、それは楽しみだなぁ」

一緒に住んでいた際、柳川さんの好きな物や食べられる物はある程度把握しているので、今日はそれを元に店を選んだ。

「佐伯さん見て下さい」
「何ですか?」

柳川さんの目の前には色違いのマグカップが…

「いいですね。こういうペアのマグカップ。買おうかな」
「良いんじゃないですか?」

賛成すると、柳川さんはびっくりしたようにこちらを向いた。

「珍しいですね。普段なら恥ずかしがるのに…」
「お、俺だって、少しは変わったんですよ…」
「そういうの、凄く良いですね」

前を向いて呟くと、柳川さんはマグカップを2つ手に取ってレジへ向かった。



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