この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
恍惚なる治療[改訂版]
第16章 仄暗い空間の中で
「そういえば、ギプスを外してからの右手の具合はどうですか?」
「時折鈍痛はあるけど、我慢出来る程です。生活には支障も無いです。ただ、1ヶ月使ってなかったので、箸の使い方がぎこちないですね」
「そうですか。特に困ってないようで安心しました」
まだ開場まで時間があるので、シネマの近くにある雑貨屋へ。
「晩ご飯はどこに連れて行ってくれるんですか?」
「それは…まだ内緒です」
「へー、それは楽しみだなぁ」
一緒に住んでいた際、柳川さんの好きな物や食べられる物はある程度把握しているので、今日はそれを元に店を選んだ。
「佐伯さん見て下さい」
「何ですか?」
柳川さんの目の前には色違いのマグカップが…
「いいですね。こういうペアのマグカップ。買おうかな」
「良いんじゃないですか?」
賛成すると、柳川さんはびっくりしたようにこちらを向いた。
「珍しいですね。普段なら恥ずかしがるのに…」
「お、俺だって、少しは変わったんですよ…」
「そういうの、凄く良いですね」
前を向いて呟くと、柳川さんはマグカップを2つ手に取ってレジへ向かった。