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嘘の数だけ素顔のままで
第2章 去勢【1】
「アルバイトとかだったんじゃないの」

「わかった! 不倫だ」とオオハナタカコが言った。

「うっそー!」

 女十二人の顔が色めき立ち、ほとんど同時にコトブキの方に注目が向いた。


 そうなんですか? とコトブキの方こそ訊きたいくらいだった。話が支離滅裂すぎる。アウトだ。もうわからない。返事の代わりにコトブキはどもるのでせいいっぱいだった。


 女の一人が、やだー、ほんとなんですかー! と目を輝かせた。

 女が十二人もいれば、今の曖昧な返事をそう誤解する人がでてきても不思議ではない、そう一瞬頭の中によぎったが、いや、待てよ、何かが違うぞ、これは十二人いるうちの陰湿な役割分担ではないのか、とコトブキは思い直して狼狽した。


 コトブキのどもりはさらにひどくなってしまい思ってもいないことが口に出た。


 そうですけど、

 女の大半が悲鳴をあげた。悲鳴をあげなかったオオハナタカコは、コトブキからふいに目を逸らして、やらしー、そう一言呟いた。嘘を見透かされたのか、それとも軽蔑をされたのか、どのみち、コトブキのダメージはでかかった。


 女たちは隣り合う者同士で肩を寄せあって盛り上がりだした。目が笑っている者、急に真顔になる者、頬を真っ赤にさせる者、ひそひそ話のおおよその内容はコトブキにも察しがついた。

『不倫』と『経験』という固有名詞が女たちの口から聞こえてくる度にコトブキはからだがカッと熱くなるのを感じた。


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