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嘘の数だけ素顔のままで
第4章 去勢【3】
 職業訓練の時間割は午前の三時間を簿記三級にあてて、午後の二時間をワードとエクセル、それとパワーポイントを使った一般的なパソコン学習にくわえ、インターネットの閲覧とメールのやり取りが予定されていた。


 クラスメイトの中には高校で簿記を習ったことのある人もいたが、大半はコトブキのように初めてだった為、午前中は皆真剣で授業中は私語も少なかった。


 一方、午後の授業はパソコン学習ということもあり、ほとんど息抜きに近かった。だから、クラスで一人だけパソコン初心者だったヒタチノゾミはプレッシャーに感じていたようだ。


 本日最後の授業はメールのやり取りだった。


 コトブキはヒタチノゾミと席が隣同士だったから、助けを求められることがよくあった。


「コトブキくん、小さい、ゆ、の打ち方どうするんだっけ」ヒタチノゾミは『先生』の方を窺いながら声をひそめて言った。

 コトブキが、Xを押したあとにYとUです、と説明をしている間にもヒタチノゾミは『先生』の方へ注意を払っていた。


「ごめん、聞こえなかった、もう一回教えて」とヒタチノゾミは小声で言った。

 どうしたの? と『先生』がやって来た。コトブキはヒタチノゾミと『先生』を交互に見た。


 ヒタチノゾミはつくり笑いを浮かべ、ひどく小さな声で、もういいから、ありがとう、そうコトブキに言った。

 コトブキは何か取り繕うように、あとは『先生』に聞いてみてください、と言ってはみたが、ヒタチノゾミの方から返事はなかった。一方の『先生』は顔色を変えずにヒタチノゾミの背もたれに手を掛けたのが対照的だった。


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