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嘘の数だけ素顔のままで
第1章 序章
 住み込みで働いている顔ぶれにはまだ若いのに身よりがいない者や病気になっても医者にすら通えない者が少なくなかった。車の免許を持っていない者も数人いた。

 半年もの間、ずっと男だと思って喋っていた同僚が、実は女だと知って驚愕させられるような職場だった。こう足元を見られているのでは労働基準法に違反していても誰も社長に文句が言えないのだった。


 日勤をこなしたあとに夜勤をし、また日勤をしろという三確(恐らくパチンコの確変をもじったもの)と呼ばれるシフトが月に最低四回はあった。現場から現場への移動時間は労働外とされていて、しかも、現場までのガソリン代が戻ってくるのは四分の一程度、だから拘束時間のわりには金にならないし車内で過ごす待機時間は、夏は灼熱、冬は極寒という地獄だった。

 日勤から夜勤の現場まで片道百二十キロあるときだってあった(あとでガソリン代を会社に申請する為に距離数は必ず測る)。コトブキは夜勤明けの国道で生まれて初めて居眠り運転をして幻覚を見た。


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