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嘘の数だけ素顔のままで
第8章 痴漢【3】
 太腿のあわい奥深くまで肉のごろつきを入れた。腰を振った。電車が揺れた。よろめきそうになるのを鼻の穴に入れたたった二本の指で支えた。電車が揺れると鼻の穴はいびつに拡がった。


 コトブキは「ばか」と言った。声にださずに正面の女たちにむかって。ほとんど人間を辞めた顔をしていたような気がした。

 ばか女の摑んでいる吊革が金属的な音を立てた。それだけ電車は揺れていたしコトブキの腰は激しかった。鼻の穴にはずっぽりと太い指が入っていて時折奇妙な音をさせて息が抜けていった。ばかと言った回数は既に五十回は越えただろう。コトブキはほとんど逝きそうだった。

 腰を振った。腰を振った。腰を振った。初めて味わうような膝のガクつきにも耐えて腰を振った。電車がひどく揺れる。腰の抽送に合わせてわざとそうしているような揺れ方だった。


 からだを支えているのが困難になってきた。コトブキはUFOキャッチャーの要領でばか女の頭をむんずと摑み、鼻の穴を指フックの形に変えた。電車は揺れるのをおもしろがっているようだった。そのすべての負荷はばか女の鼻の穴が支えた。

 逝きそうだ。そう思うと同時に痴漢心が疼いた。黙って逝ってやる。コトブキは射精した。


 腰を振り出してから一度もばか女の顔を見なかったことに満足した。正面の女たちはそれぞれ床を見遣った。恐らく精子があそこまで飛んだのだろう、とコトブキは思った。肉のごろつきはまだ脈打っていて尿道の詰まりを吐き出していた。


 申し合わせたみたいに電車が減速していった。Tシャツの汗が冷たくてふいに寒さを感じた。肉のごろつきを丸出していることが急に恥ずかしくなってきた。コトブキは慌ててズボンを上げた。

 やがて電車は完全に停車し、ドアが勢いよく開いた。


 コトブキはもはや女たちの顔を見上げることができなかった。これじゃ本当の痴漢みたいだ、そう思った。逃げるように電車を降りると、後ろの方で女たちから残念そうな声があがった気がした。


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